元PL球児の漫画家、なきぼくろさん 『バトルスタディーズ』強さの内側にあるもの
産経新聞 7月22日(水)8時0分配信
PL学園野球部出身の漫画家、なきぼくろさん(写真:産経新聞)
 今年100年目を迎える高校野球。春夏を通じ7度の甲子園制覇を誇る大阪の名門、PL学園野球部で甲子園に出場した漫画家が手がける高校野球漫画『バトルスタディーズ』(講談社「週刊モーニング」連載)が話題だ。清原和博さんや桑田真澄さんをはじめ、多くのプロ選手を輩出してきた名門は今年、暴力問題などの余波で新入生の募集を停止。苦境のなかで、甲子園出場をかけた予選を戦っている。作品に込めた思いを作者のなきぼくろさん(29)に聞いた。(戸谷真美)

■「運動神経のいい絵」

 「強いチームには、強い理由がある。(漫画を通じて)強い人たちがなぜ強いのかというのを描けたら、と思ってます」

 『バトルスタディーズ』の主人公は、PL学園をモデルにした強豪「DL学園」に特待生として入部した狩野笑太郎。DL-横羽間の延長十七回の死闘を見てDLに憧れ、中学日本代表で戦った仲間らとともに晴れて入学した笑太郎だが、待っていたのは厳しい規律と絶対的な上下関係だった-。

 寮生活の規律から泥まみれのユニホームの洗濯の仕方まで、リアルかつユーモラスに表現される強豪の日常。何より、漫画家になる前にイラストレーターとして活躍していただけあって、漫画の枠を超えた躍動感のある絵が印象的だ。

 担当編集者の水野圭さんは「画力が圧倒的でした。一言で言えば“運動神経のいい絵”。躍動感があって、このシーンを描きたいという情熱とアイデアがずば抜けていた」と振り返る。23日発売の2巻・19話には、紅白戦で捕手の笑太郎が二塁への盗塁を刺す場面がある。地面すれすれのアングルから笑太郎のスパイクの裏をどアップに描く見開きは圧巻だ。「(スパイクや防具を)武器のように見せられたらカッコイイな、と思って描きました。あとは葛飾北斎の影響ですね」となきぼくろさん。なるほど、圧倒的な前景と奥行きのある絵は北斎の名画「神奈川沖浪裏」を思い起こさせる。

■一番辛かったのは…

 小4で野球を始めたなきぼくろさんは笑太郎同様、横浜-PL学園の死闘を見て、PLに憧れた。

 努力は実り、3年後にPL学園に入学。2年先輩には、千葉ロッテの今江敏晃選手や元阪神の桜井広大さんらがいた。とはいえ、規律は厳しく、下級生は上級生に「はい」「いいえ」以外は口にできず、笑うことさえ許されなかった。

 夢だった甲子園には9番右翼手で出場。最後の夏は2回戦敗退で終わった。その後は好きだった絵の勉強を始め、イラストレーターとして活躍。一昨年の初夢をきっかけに漫画家への道を歩み始め、現在に至る。

■触れたくない宝物

 PLでの日々を「絶対触りたくない宝物」と笑って振り返るなきぼくろさん。確かに厳しい3年間だったが、厳格な上下関係のなかで、先輩に励まされることも多かったという。「そやなかったら辞めてます。厳しいこと言われても(先輩の打撃練習で)バッティングピッチャーをしたら、絶対に『ありがとう』と言ってくれる。怒られてもそれに愛情を感じることが多かった。野球をするために集まった仲間ですから」

 後輩たちは今、苦境のなかで甲子園出場をかけた大阪府大会を戦っている。2、3回戦を勝ち抜き、22日朝、4回戦に臨む。「大変やろけど、頑張ってほしい。後輩たちがいちばんつらいなかで頑張っとるんやから、僕も頑張らなあかんと思う。応援してくれる人はたくさんいる。それを忘れないでほしい」

 ◆なきぼくろ 昭和60年、大阪府枚方市生まれ。平成13年、PL学園高校に入学し硬式野球部に入部。卒業後はイラストレーターとして活動。25年、初めての漫画作品「どるらんせ」が講談社主催の新人賞「MANGA OPEN」で奨励賞とeBook Japan賞を受賞しデビュー。
配信元:yahooニュース

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